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タイトル
オレと芝生

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プロ野球セントラルリーグの2018年シーズンは、

広島東洋カープの3連覇で幕を閉じた。

残念ながら日本一は逃したが、その強さは本物だ。

強さの秘密とは何か?と考えてみた。

そこには、もちろん選手ひとりひとりの能力の高さや、監督の采配もあるが、

本拠地「マツダ スタジアム」

(MAZDA Zoom Zoomスタジアム広島の略称、正式名称は広島市民球場)

の存在が大きく関係しているように思われる。


「マツダ スタジアム」は、旧広島市民球場の老朽化に伴い、新球場建設を決定した。

当初、広島東洋カープはメジャーリーグのスタジアムから国内の地方球場に至るまで

くまなく施設の視察を行うなど新球場の研究を精力的に重ねた。

新球場は、1990年代以降、メジャーリーグで主流となったオリオール・パーク・

アット・カムデン・ヤーズに代表される「新古典派(ネオ・クラシカル様式)」の

考え方を取り入れた。

また、AT&Tパークの設計を参考にメジャーリーグ流の機能的、かつコスト配分の

メリハリをつけた設計案が採用された。

そして、2009年に開場した。

http://www.mazdastadium.jp/

度々、テレビでも紹介されているが、マツダスタジアムには多くの特長がある。

その中でも特にすばらしいのは、“芝生の美しさ”だ。

入場ゲートを通り抜けると、きれいなコントラストと迫力のあるグランドが目に

飛び込んでくる。

ドーム球場では味わえない解放感の中、緑の芝生に目が釘づけになる。

まるで、メジャーリーグを見に来たようだ。


その「マツダ スタジアム」のグランド管理を任されている、日本体育施設株式会社

スポーツターフ管理グループ チームリーダーの森田 誠 氏に話を伺うことができた。

http://www.ntssports.co.jp/

森田 誠 氏

森田氏の前職は、ゴルフ場のグリーンキーパーだった。

野球が好きで、カープファンであったため、マツダ スタジアムで仕事がしたい、

と開場して間もない2009年5月、日本体育施設株式会社に入社。

3年目の2012年のシーズンからマツダ スタジアムの管理を任されている。

芝生の管理は、ゴルフ場での経験が生きている。

ゴルフ場と野球場の管理の違いについて聞くと、

「野球場は、ゴルフ場でいえば、ミドルホールくらいの広さ。面積は狭いです。

しかし、野球場は試合日だけではなく、練習日があります。また、マツダ スタジアムは

市民球場のため、試合日数と同日数の一般貸し出し日があり、年間利用は200日を

超えます。そのため、グランド整備の時間調整には大変苦労します。」

と苦笑い。


今までで、一番苦労したことといえば何ですか?という質問には、

「そうですね、広島東洋カープが初めてクライマックスシリーズに出た2013年

でしょうか。その時期はオーバーシードをするのですが、初めてのことで

スケジュール調整するにも段取りがわからず、大変困ったことを覚えています。

それから、今年は豪雨で、9月に雨のため延期された試合が振り替えられて

9連戦になり、管理が本当に大変でした。それでもスタッフの努力とスケジュール面で

球団や選手が協力してくれたおかけで、この困難を乗り越えられました。」

と振り返った。

森田氏は、球団とのコミュニケーションを欠かさない。

ときには球団に協力を依頼し、常に試合のスケジュールや天候による管理

スケジュールを巧みに調整しながら、数々の困難を乗り越えていく。

これは広島東洋カープの森田氏に対する信頼の高さがうかがえる一幕でもあった。


マツダ スタジアムでは、内野は芝生が盛り上がってきて選手の視覚が変わるため、

毎年芝生を張り替えている。

外野は開場以来、芝生の張り替えはしていなかったが、3年前のオフに全面張り替えた

そうだ。

森田氏は「ちなみにその翌年、広島東洋カープは優勝しました。」と嬉しそうだった。

その優勝から、広島東洋カープはセリーグ3連覇を達成している。

そして「芝刈りは、シーズン中の刈り込みは手押し式の芝刈り機のみを使用しています。

見た目の美しさを追及すると、多少、時間と労力がかかっても惜しまずやることが大切だ

と思っています。刈り込みは、優勝した験を担いで、3年前から基本的に同じに

しています。」と笑った。

森田氏にとって、手塩にかけたスタジアムで大好きな広島東洋カープが優勝を

飾ったことは最高のご褒美だったに違いない。


「グランド管理は、まずプレー性、そしてケガをしないように。その次に、美観です。」

と森田氏は言う。

常に選手のことを一番に考え、イレギュラーがない均一なグランドになるように

配慮している。

また、森田氏は「子供のころプロ野球の試合に連れてきてもらったとき、ゲームの内容

より、グランドの芝生(緑)のきれいさが今でも印象に残っています。だから、

その感動をお客様に感じてもらいたいと思っています。」とも言う。

芝生は生き物だから、毎日何かが違う。これを感じること。

色々な技術を取り入れて、さらに良い天然芝のグランドにしていくこと。

“常にベストは難しいけど、その時々のベストにする。”

それが森田氏のポリシーだ。


最後に、マツダ スタジアムの素晴らしさと今後の目標について聞いてみた。

「マツダ スタジアムは“広島の夢の器”です。広島市民の熱い気持ちがこもっています。

自分はそこを管理していることに誇りを持っています。人工芝と天然芝、

ドーム球場と屋根なし球場、一概にどちらが良いかということは言えません。

その地域の諸事情や考え方がありますから、どちらにもメリット・デメリットが

あります。自分は、任された天然芝のこの球場で、お客さんに見て感動してもらえる

グランド作りを目指していくだけです。」

と胸を張る。

天然芝の球場では、選手が裸足でウォーミングアップしていることもある。

「ある選手が、芝生が荒れているのを見つけて『人工芝がホーム球場の選手は天然芝の

グランドの使い方が荒い。大事にするよう言っといてやるよ。』なんて

言ってもらったときは、本当に嬉しかったですね。」と森田氏は語る。

お客様の「笑顔」、選手からの「ありがとう」は、森田氏にとって一番の

励みのようだ。


 

今回の取材で、数十年前に訪れたアメリカの「ドジャー・スタジアム」を思い出した。

マツダ スタジアムにはそんな雰囲気がある。

“メジャーリーグのボールパーク“ “三世代が楽しめる野球場“

国内の球場としては初となる数々の試みは従来の野球ファンのみならず、

これまで古い市民球場での観戦をためらっていた人々にも受け入れられている。

お客様を楽しませるというスタッフの気持ちが、球場全体にあふれている。

2019年も「マツダ スタジアム」「広島東洋カープ」に注目したい。

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